名画の隠された恐怖を読み解こう!「怖い絵」展が兵庫&東京で開催

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花火特集2017

作家・ドイツ文学者の中野京子によるベストセラー「怖い絵」の刊行10周年を記念した特別展「怖い絵」展が、兵庫県立美術館で2017年7月22日(土)~9月18日(月・祝)まで、上野の森美術館で2017年10月7日(土)~12月17日(日)まで開催されます。視覚的な怖さだけでなく、「この絵がなぜ怖いのか」という隠された背景を知ることで分かる恐怖を紐解いていく、今までになかった斬新な展覧会となっています。

ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー 《オデュッセウスとセイレーン》1909年 油彩・カンヴァス リーズ美術館蔵
©Leeds Museums and Galleries (Leeds Art Gallery)

テーマは「恐怖」!兵庫&東京で、「怖い絵」展が開催

「怖い絵」展は、作家・ドイツ文学者の中野京子によるベストセラー「怖い絵」の第1巻刊行10周年を記念した特別展です。2007年にシリーズ1作目が刊行された同書は、「恐怖」をキーワードに据えて西洋美術史に登場する名画の魅力を紹介しており、その絵の時代背景や隠された物語という知識をもとに読み解く美術書としてベストセラーを記録し、シリーズ化されて多方面で大きな反響を呼びました。

本展では、書籍で取り上げた作品をはじめ、ターナー、モロー、セザンヌなど、ヨーロッパ近代絵画の巨匠の“怖い”作品など、近世から近代にかけて、ヨーロッパ各国で描かれた油彩画や版画、約80点をテーマごとに展示。これまでとは違う視点で、名画に隠された「恐怖」を読み解きます。

また、著書でも紹介された、ロンドン・ナショナル・ギャラリーを代表する名画、ポール・ドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」も日本初公開。縦2.5m、横3mにもおよぶ大作を間近で鑑賞できる絶好の機会となっています。

注目作品をピックアップ!

ポール・ドラローシュ「レディ・ジェーン・グレイの処刑」

ポール・ドラローシュ 《レディ・ジェーン・グレイの処刑》 1833年 油彩・カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵 Paul Delaroche, The Execution of Lady Jane Grey,
 ©The National Gallery, London. Bequeathed by the Second Lord Cheylesmore, 1902

ロンドン・ナショナル・ギャラリーの代表作品「レディ・ジェーン・グレイの処刑」が、本展のために初来日します。ヘンリー8世の姪の娘として生まれたばかりに政争に巻き込まれ、望みもしない王冠を被せられたあげく、わずか16歳で死なねばならなかった、悲運の女王・ジェーン・グレイ。「9日間の女王」とも呼ばれる彼女が、今まさに処刑されようとしている風景が、この絵に描かれています。手探りしている首置台に触れれば、彼女は司祭の助けをかりてそばに身を横たえ、処刑人の大きな斧の一撃を受けるのです。下に敷かれた藁は、夥しい血を吸いとるためのもので、首がころがる様をも想像させます。
残酷な運命を前に、怯えるでなく怒るでなく、周りの悲嘆にも動揺するでなく、覚悟を決めて従容と死につこうとしている少女。その儚い一輪の白い花のごとき姿、散る寸前の匂いたつ美しさ、清楚な魅力が光る1枚です。

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス「オデュッセウスに杯を差し出すキルケー」

ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 《オデュッセウスに杯を差し出すキルケー》1891年 油彩・カンヴァス オールダム美術館蔵
©Image courtesy of Gallery Oldham

本作で取り上げられているのは、「オデュッセイア」第10歌、アイアイエー島の主であるキルケーと運悪くこの島に漂着した英雄オデュッセウスが対面する場面です。キルケーは、近づく男たちを歓待すると見せかけて、魔術で動物に変えてしまう恐るべき魔女。ここでは、薄衣をまとって玉座に座り、右手の杯を高々と掲げる傲岸な姿で描かれています。そして、魔女キルケーの背後の大きな鏡に描かれているのは、部下たちを探しに来たオデュッセウス。部下は、キルケーの美貌に惑わされ、勧められるまま薬草を煎じた魔酒を飲んで豚に変えられ、周囲に転がっています。

面白いことに、オデュッセウスとキルケーはこの出会い後たちまち恋に落ち、1年以上も共に暮らし、別れに際してキルケーは、この先の航海で待ち受けるセイレーンから身を守るためには、彼女たちの歌声を聞かないよう蜜蝋で耳栓をすべし、と忠告したと言われています。

ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー「オデュッセウスとセイレーン」

ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー 《オデュッセウスとセイレーン》1909年 油彩・カンヴァス リーズ美術館蔵
©Leeds Museums and Galleries (Leeds Art Gallery)

キルケーの島を離れたオデュッセウスらを待ち受ける次なる試練は、セイレーンの棲む海を無事に航行することでした。半人半鳥または半人半魚の姿で、美声によって船乗りたちを惑乱させ、船を沈めたと言われる海の魔女セイレーン。マストに縛りつけられた古代ギリシャの英雄オデュッセウスは、彼だけ蜜蝋の耳栓をしていなかったため、セイレーンの歌声を聞いて狂乱し、海へ飛びこもうと身をよじっています。
ドレイパーが描くセイレーンは、当時のイギリス人が理想とする若い美女そのもの。彼女らの下半身は海中では魚なのに、船べりによじのぼる時には白いエロティックな脚となり、腰には海藻が巻きついています。さらに船内へ入ると藻は布へと変わり、あたかもファム・ファタール(男を破滅させる運命の女)の正体は、人間ならざる異界のものだと言っているかのようです。

ジャック=エドゥアール・ジャビオ「メデューズ号の筏(テオドール・ジェリコー作品の模写)」

ジャック=エドゥアール・ジャビオ 《メデューズ号の筏(テオドール・ジェリコー作品の模写)》 1854年 油彩・カンヴァス ボルドー美術館蔵
©Musée des Beaux-Arts, Ville de Bordeaux. Photo L. Gauthier

こちらの作品は、ジェリコーによるフランス・ロマン主義絵画の記念碑的作品(ルーヴル美術館蔵)の模写にあたります。メデューズ号事件は、フランス王政復古期に起こった、無能な貴族艦長による弱者切り捨ての大スキャンダル。ナポレオン戦争が終結し、西アフリカの植民地セネガルがイギリスからフランスへと返還されることが決まり、海軍のフリゲート艦メデューズ号は3隻の船舶とともに同地に派遣されました。しかし、メデューズ号は早々に、ほかの船舶とはぐれ座礁。400人の乗員に対して救命ボートは250人分しかなく、残りの150人は急ごしらえの筏に乗せられてしまいます。始めは、ボートにひかれていましたが、反乱の恐れありとロープを切り離され大西洋へと放り出されます。わずかの水と食料だけで筏に放置された約150人の乗員たちは、炎天下のアフリカ海域を13日間も漂流し、最終的にサバイバルできたのは、10人弱と言われています。
政府は事件を揉み消そうとしましたが、ジェリコーの傑作がそれを許しませんでした。作品は模写され、版画になり、ヨーロッパ中に衝撃を与えたのです。そのダイナミックな構図とドラマティックな表現法は、現代のハリウッド映画にまで影響を与え続けています。

ウィリアム・ホガース『ビール街とジン横丁』より「ジン横丁」

ウィリアム・ホガース  『ビール街とジン横丁』より《ジン横丁》 1750-51年 エッチング、エングレーヴィング・紙 郡山市立美術館蔵
©Koriyama City Museum of Art

ジンは、オランダ総督で名誉革命後にイングランド王に即位したウィリアム3世によってイギリスにもたらされてもの。今ではカクテルベースとしてのジンが身近ですが、絵の中の人々はストレートで飲んでいます。イギリス国内では、ジンは原料も安く、税もかからず安く手に入れられましたが、牛乳やお茶、そしてビールは高く、貧民街に住む人々はジンを飲むしかありませんでした。いつしか街の中では、子どもまでもが安酒のジンを飲み、地獄さながらの様相が繰り広げられていたのです。その模様がこの作品の中から読み取れます。しかしながら、当時のジンは安かろう悪かろうの粗悪品で大勢の健康をそこね、廃人を産み、犯罪も激増。作者のホガースは、反ジン・キャンペーンとしてこの作品を制作しました。対になったもう1枚では豊かなビール街が称えられています。

ゲルマン・フォン・ボーン「クレオパトラの死」

ゲルマン・フォン・ボーン 《クレオパトラの死》 1841年 油彩・カンヴァス ナント美術館蔵
©RMN-Grand Palais / Gérard Blot / distributed by AMF

女性ヌードを描くには、近代になるまで、聖書ならイヴ、神話なら女神やニンフ、歴史なら古代女性と、エクスキューズが必要でした。そのため、絶世の美女クレオパトラも、歴史画としてこぞって取り上げられました。
紀元前1世紀のエジプト女王クレオパトラは、弟から王位を追われた後、ローマのシーザー(カエサル)を籠絡し、その愛人となり、王位を奪還。シーザーが暗殺されると今度は次の権力者アントニウスと結婚しましたが、彼の失脚とともに命運尽きて自殺してしまいます。自殺の手段は、アスプコブラ(別名エジプトコブラ)に噛ませてのものだったと伝えられています。
本作でも、その伝承にのっとり、ベッドのシーツに茶色い蛇がのたくるように這っています。神経性の猛毒なので、クレオパトラの身体はぐったり弛緩し、眠るかのようです。そして、それこそが、彼女がアスプコブラを選んだ理由でした。激しい政争の時代、幾度も命の危機にさらされてきたクレオパトラは、生きたまま敵の手に落ちることだけは避けたい、見苦しくなく美しいまま死にたいと、早い段階から毒蛇を飼っていました。エキゾチックなエジプト風の舞台背景の中、敵から辱めを受ける恥辱を避けるために誇り高く自害する姿としてではなく、妖艶な美女としての官能的な姿が描かれています。

各章の内容をご紹介!

1.神話と聖書

神話や宗教は、本質的に人間には抗うことのできない超越的な力や摂理を抽出するもの。ギリシャ・ローマ神話や聖書で語られる物語は、必ずしも幸福なものばかりではなく、人間に苦難を強いたり、悲劇的な結末を迎えるものも少なくありません。この章では、神の意志や気まぐれに翻弄される人間の悲喜劇を描いた絵画を紹介します。

2.悪魔、地獄、怪物

ヨーロッパのキリスト教世界では、人間を堕落させ悪の道へと誘う者として悪魔という存在が長きに亘って想像されており、人間が生前犯した罪の報いを受ける死後の世界として、地獄のイメージが伝統的に培われてきました。「悪魔、地獄、怪物」の章では、近代にまで命脈を保った悪魔や地獄のイメージや、それに近接する怪物の主題を描いた作品を取り上げます。

3.異界と幻視

人は、自らの日常生活の外にそれとは違う論理に支配された異界というべき空間を想像してきました。また、とりわけロマン主義以降の美術では、異界が時として日常生活の狭間や我々自身の内面に発生する様子を幻視するかのような作品が数多く生み出されました。本章では、私たちの住む世界の自明性を脅かす様々な異界の表現を紹介します。

4.現実

様々な恐怖と苦悩に満ち満ちている現実世界。なかでも最大にして最も普遍的な恐怖は死と言えるでしょう。死は、それに近接する老いや病気、あるいは犯罪や戦争などの死を発生させる事象とともに、画家たちにとって重要な主題でした。また現実の世界には、一見無害に見える社会的な習俗にも様々な悪弊や不条理が潜んでいます。この章では、死の場面を中心に、現実の中に存在するいくつもの闇を描いた絵画に焦点を当てます。

5.崇高の風景

18世紀から19世紀にかけてのロマン主義時代、風景画は新たな発展を遂げていきました。歴史画の背景として発達した理想的風景や特定の場所のありのままの姿を描写する地誌的風景に加え、なんらかの感情や気分を暗示的に表現する主情的・主観的な風景画が生み出されました。本章では、「崇高」の美学を反映した作例を取り上げ、その背後に隠された不安や恐怖の感情を読み解きます。

6.歴史

人間の歴史は、激しい権力闘争の歴史でもあります。ヨーロッパにおいてもそれは例外ではなく、一度は栄華を誇った者であっても、ひとたび争いに敗れてしまえば無慈悲な運命が待ち受けていました。本章では、歴史を彩る悲劇的なエピソードや運命に翻弄された人々の姿を描いた作品を特集します。

展覧会の注目ポイント!

テーマは「恐怖」!これまでにない切り口で楽しめる

「恐怖」をテーマに、視覚的な怖さだけでなく、隠された背景を知ることで判明する恐怖まで、約80点の西洋絵画・版画が登場。その怖さを読み解くヒントとともに絵画をじっくりと鑑賞できます。さらに、ターナー、モロー、セザンヌなど、ヨーロッパ近代絵画の巨匠による"怖い"作品も楽しめます。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーの至宝「レディ・ジェーン・グレイの処刑」が奇跡の初来日!

本展最大の注目作は、縦2.5m、横3mにもおよぶ、ポール・ドラローシュの大作「レディ・ジェーン・グレイの処刑」。「9日間の女王」として知られ、16歳にて散った、イングランド史上初の女王の最期を、繊細な筆致と緻密な構成で描いた本作は、まさに圧巻の一言ですよ。1928年のテムズ川の大洪水により失われたと考えられていましたが、1973年の調査で奇跡的に発見された本作は、1975年の一般公開再開以来、瞬く間にナショナル・ギャラリーの代表作品となった、奇跡の作品。アートファンの方は必見です。

ベストセラー「怖い絵」シリーズ著者・中野京子氏が特別監修!

本展の特別監修は、「怖い絵」シリーズの著者・中野京子氏。この展覧会のため、新たに選び抜いた“怖い絵”が続々登場します。また、ポール・ドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」のほか、ハーバート・ジェイムズ・ドレイパーの「オデュッセウスとセイレーン」や、ウィリアム・ホガースの『ビール街とジン横丁』より「ジン横丁」など、「怖い絵」シリーズで紹介された作品も展示します。

「怖い絵」展 開催概要
<兵庫会場>
会場:兵庫県立美術館
住所:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1
会期:2017年7月22日(土)~9月18日(月・祝)
※金・土曜日は夜間開館20:00まで
時間:10:00~18:00()
休館日:※月曜休館(9月18日は開館)※入場は閉館の30分前まで。
料金:一般 1,400(1,200)円、大学生 1,000(800)円、70歳以上 700(600)円、高校生以下無料
※( )内は前売料金(一般・大学生のみ)および20名以上の団体割引料金。
※障がいのある方は各当日料金の半額(ただし70歳以上料金からの割引はなし)。その介護者1名は無料。
※割引を受ける場合は証明できるものを持参。
※県美プレミアム展の観覧には別途観覧料金が必要(本展とあわせて観覧する場合は割引あり)。
問い合わせ:078-262-0901(兵庫県立美術館)
公式サイト:http://www.artm.pref.hyogo.jp/

<東京会場>
会期:2017年10月7日(土)~12月17日(日) ※会期中無休
会場:上野の森美術館
住所:東京都台東区上野公園1-2
時間:10:00~17:00
※入場は閉館の30分前まで。
料金:一般 1,600(1,400)円、大学生・高校生 1,200(1,000)円、中学生・小学生 600(500)円
※( )内は前売料金、および20名以上の団体料金。
※小学生未満は無料。
※障がい者手帳の提示、およびその介護者1名は無料。
問い合わせ:03-3833-4191(上野の森美術館 全日10:00~17:00)
公式サイト:http://www.ueno-mori.org/

「怖い絵」展 特別サイト:http://www.kowaie.com/

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